試行錯誤で見い出した「米」「千秋楽」
 朝日酒造は10年前、酒造適りに最した好適米を研究、栽培するため農業生産法人 
「(有)あさひ農研」を設立した。朝日酒造といえば銘酒「久保田」シリーズで
日本中の左党を釘付けにした蔵として知られるところだが、当時は久保田人気が
ますますの広がりを見せている頃だった。その成功に溺れることなく、驕ることなく
「酒造りは米作り」という蔵の信念を改めて問い、その徹底を図ったのだ。21世紀の
酒造りにふさわしい米を求めて。

 言うは易い。例えばコシヒカリに代表される優良米の産地新潟なら、原料米探しは
たやすそうにも思えてしました、だが食米と酒造りに適した米は根本的に違う。 
酒造りにとっていい米の条件は蛋白質の含量が少ないこと、そして磨ける米である
こと。蛋白質が多いと酒の雑味成分となるアミノ酸が多くなってしまうが、逆に食米
はこの蛋白質が米の旨味を決める。蛋白質が米の味を個性づけるのだ。
そして磨ける米であるためには、粒が大きく揃っていることが条件になる。

 そのために朝日酒造の蔵人たちが取り入れたのが減肥栽培だ。窒素肥料を減らす
ことで蛋白質を抑えることができ、粒も揃うようになった。反面、肥料を減らすこと
は収穫も減らすことになる。これは従来の稲作の考えを百八十度変えることだ。
肥科を増やすと収穫は上がりますが、品質にばらつきが出る。それまでの稲作という
と、一反あたりどれだけの米が取れたかということを競ってましたから、反収を
抑えて、米の質を上げていくという発想は受け入れにくいのです」と工場長の
片岡惇は減肥栽培の難しさを訴える。

 米にはその収穫時期から、早稲、中稲、晩稲に分かれるが、最も適しているのが
晩稲である。収穫期が遅くなれば登熟期の昼夜間の温度差が大きくなり、蛋白分を
抑える要因になる。あさひ農研と朝日酒造のスタッフは、地道に酒造りに適した米を
探し続けた。これはと思ったものは田植えし、収穫し、分析する。そんな繰り返しの
なか、新潟県の農業試験場から一握りの種籾が供される。その名も「千秋楽」。
晩稲中の晩稲を意味するこの米は、かつて新潟県奨励品種に指定されていたが、
農業形態の変化に伴い農家が晩稲を作らなくなったため、姿を消してしまった
幻の米だ。「収穫期の遅い晩稲は早稲に比べて作業時間が長くなる上、台風などの
被害をも受けやすくなる。しかもこの千秋楽は茎が高く倒状の可能性が高いのです。
そのうえイモチ病に弱いといわれてました。何より問題だったのはこの米の作り方を
誰も憶えていなかったのです」 (片岡工場長)

 あさひ農研と朝日酒造のスタッフは全く手探りでこの千秋楽の栽培に挑んだ。
その結果65sが収穫できた。その分析果に片岡は驚いた。「蛋白含有量が少なく、
それでいて時に幅と膨らみをもたらすアミロース(デンプンの一種)が酒造好適米と
同等、もしくはそれ以上あったんです。また、老化現象(蒸し後の冷却により、
硬くなり溶けにくくなる現象)が起りにくい傾向にあリ、もろみでのとけやすさが
保持できることもわかりました。粒も従来の主力米「五百万石」並の大粒で、
粒が硬く精米に耐えられると、想像以上でした」

21世紀を代表する銘酒誕生

 この”抜群の米”に、層厚三千メートルの地層を通って湧き出す「宝水」と
呼ばれる雑味のない超軟水を使って造り上けたのが、「純米大吟醸越州」である。
千秋楽を90時間をかけゆっくり丁寧に40%にまで磨き上げ、あくまでも淡麗辛口に
こだわりながら「軽快な飲み口にきれのある後味」と「膨らみのある味の幅」という
交わりにくい要素を両立させたのである。アルコール度数も14度と従来の15度より
下げながら、すっきりした飲みやすさを実現、それでいて15度台の味と深みに負け
ない酒となった。

 「鮮麗・・・」
千秋楽復活劇の立て役者あさひ農研顧問(元新潟県県農業試験場長)の國武正彦は
「越州」の味をこう表現する。
 そして、新たに「純米吟醸越州」を送り出した。精米歩合を50%とし、千秋楽の
持つ旨味と香味を引き出した酒だ。「大吟醸の持つ綺麗さにいささか物足りなさを
かじるという方にはおすすめです。」(片岡工場長)

 これを機に朝日酒造は従来の「越州朝日山」を、すべて「越州」に統合した。
千秋楽の麹を「本醸造」「特別本醸造」「特別純米」にも使用し、千秋楽を原料米
とする「越州」のラインナップが完成する。小印は純米大吟醸が「禄乃」、
純米吟醸が「悟乃」と名付けている(特別純米は「参乃」、特別本醸造は「弐乃」、
本醸造は「壱乃」)。

 ラベルも稲藁を漉き込んだ地元の手漉き和紙を使用し「越州」の物語性を強めて
いる。どんな料理ともぶつからず、飲み飽きず、それでいて味わい深い・・・・
紛れもなく21世紀にふさわしい酒が誕生した。

 課題は千秋楽の作付けをどう増やしていくかだ。もともと「杜氏の養成所」と
言われるほど朝日酒造の人づくりには定評がある。蔵は当代一との呼び声が高い。
蔵人の技が不要な部分は機械化する一方、酒質を決定づける経験や堪が必要な部分は
機械化やコンピュータ制御に譲ることをしない。蔵人はただひたすら酒造りに専心
できる。「当社には農家の方々から千秋楽を作りたいとう声が寄せられますが、
二つ返事とはいきません。減肥栽培をまず理解していただかなくてはなりませんし、
そのうえ千秋楽は手間がかかり、イモチ病にも弱い。他の稲から感染しないよう
作付け場所も見極めなければいけません」 (片岡工場長)

 栽培に関してはこの点を理解した農家のみで「千秋楽栽培組合」を結成し、
朝日酒造がきっちり関わっていくようにしている。はやる気持ちはある。
それを抑えることが酒造りの基本であることも朝日酒造の蔵人は熟知している。 

                   ●朝日酒造株式会社
                    新潟県三島郡越路町朝日880−1
                    0258-92−3181

                     「男の隠れ家」 2000年11月号記事より