09. 水いろいろ

●井戸
井戸とは、地下の帯水層より水を汲み上げるために、人工的に掘削した縦穴をいいます。井戸は、その構造、施工法により次のように分けられます。
1.構造により開井と管井の別があります。前者は人力や機械力により掘削した、直径の大きな井戸で、底部の帯水層の水を揚水します。後者はパイプを打ち込んで、帯水層よりパイプ中にたまる水を揚水します。
2.施工法により、手堀井戸、打込井戸、掘抜井戸、機械堀井戸などの別があります。
3.揚水水位により、自由水井戸、被圧水井戸の別があります。上部に不透水層がない帯水層の水を自由水井戸といい、不透水層にはさまれた第二帯水層以下の水は、圧力を受けて被圧水となりこれを揚水する井戸を被圧水井戸といいます。

●酒造用水
清酒造りには、多量の水を必要としますが、その使用目的により、次のように区分します。
            ・・洗米、浸漬用水
     ・・醸造用水・・・仕込用水
酒造用水・・      ・・雑用水(洗浄用、ボイラー用など)
     ・      ・・洗瓶用水
     ・・瓶詰用水・・・割水用水
            ・・雑用水(洗浄用、ボイラー用など)

●醸造用水
酒造場で醸造用に使用される水で、洗米浸漬用水、仕込用水、雑用水に区分されます。白米を洗浄し、浸漬、漬替えするのに使用される水を洗米浸漬用水といい、鉄分など酒質に悪影響を及ぼす成分を含まない水が必要です。洗米の方法により異なりますが、白米1トンあたり4~6立方メートル必要です。酒造原料として、仕込配合に従い直接仕込に使用される水を仕込用水といい、白米1トンあたり1.3立方メートル程度使用されます。仕込用水の水質は醪の醗酵、酒質に大きな影響を及ぼすため、鉄などの有害成分を含まず、また醗酵に有効な成分を適量含んでいる水が求められます。雑用水では、容器や器具の洗浄に用いられる水には鉄分の少ない水が、またボイラー用水には軟水が必要になります。

●瓶詰用水
清酒を瓶詰し製品化する工程で使用する水を瓶詰用水といい、洗瓶用水、割水用水、雑用水に区分されます。洗瓶用水には、予洗水、洗剤液、徐冷水、洗浄水などがあり、特に洗浄水は良質で無菌に近い水が必要です。洗剤液には、苛性ソーダを主とするアルカリ性洗剤が使用されます。割水用水は、原酒を市販酒規格に合致させるために加水する水で、仕込水に匹敵する良質の水を必要とします。雑用水は醸造用水に同じです。

●水の成分
1.硬度
水の中のカルシウム、マグネシウム、すなわちアルカリ土類金属の量を酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムの量として示したもので、前者をドイツ硬度といい、単位は度を用います。後者をアメリカ硬度といい、ppmで表示します。日本では一般にドイツ硬度が用いられ、水100ml中のカルシウム、マグネシウム量を酸化カルシウムのmg数で表したものです。カルシウムに由来する硬度をカルシウム硬度、マグネシウムに由来する硬度をマグネシウム硬度といいますが、マグネシウム硬度の測定は困難なので、全硬度とカルシウム硬度の差をもってマグネシウム硬度としています。滴定法により定量されます。

2.カルシウム
カルシウムはクロールと共に麹からの酵素の溶出を助け、蒸米の成分の分解を促進する成分として、またマグネシウムはカリウム、燐酸と共に酵母の増殖、醗酵促進に役立つ成分として、いずれも重要視されています。

3.カリウム
酵母の増殖、醗酵促進に役立つものとして、重要視されています。炎色光度法、原子吸光法により定量されます。

4.燐酸
カリウム、マグネシウムと共に酵母の増殖、醗酵促進に役立つ重要な成分で、ほとんどが燐酸カルシウムの形で存在しています。比色法により定量されます。

5.硝酸、亜硝酸
生もと系酒母育成においては、硝酸が硝酸還元菌の作用で亜硝酸となり、これが酵母の発育を抑制し、その間に乳酸菌を繁殖させるという操作をとるため、生もと系酒母育成には硝酸は重要な成分です。しかし、多量の硝酸の存在は、亜硝酸、アンモニアと共に動物性窒素化合物に由来することが多く、水が汚染されている恐れがあるため、好ましくありません。

6.鉄
鉄は清酒を着色させ、香味を悪くする有害成分です。すなわち鉄は、麹菌が生産した酵素に結合して赤褐色のフェリクリシンという化合物になり、清酒の着色の原因となります。また、清酒中のブドウ糖とアミノ酸が化合して着色し、香味を悪くするアミノカルボニル反応を促進します。許容量は0.02ppm以下とされています。

7.マンガン
清酒は光線、特に紫外線により着色反応を起こしますが、マンガンはこの反応を促進します。許容量は0.02ppm以下とされています。

8.有機物
天然水中の有機物は、動植物性の腐食物などに由来するもので、どんな良質の水にも多少は存在していますが、多量に含むものはその水が汚染されている証拠で、有機物量は水の汚染の指標となります。

●水の加工、矯正
醸造用水に有効成分が不足している場合、不足している成分を補って、目的とする水質に合わせることを水の加工といいます。水の加工には、食品添加物として許可されたもので、酒税法上でも許可された薬品を使用しなければなりません。
逆に水に含まれる有害成分は、使用目的によって、有効成分を損なわずに除去しなければなりません。この操作を水の矯正といい、各種の漉過法や殺菌法、気曝法、井戸替えなどによって行なわれます。

●宮水
兵庫県西宮市の海岸部、わずか2~300m四方の狭い地域に湧出する地下水のことで、鉄などの有害成分が極めて少なく、また燐酸、カリウムなど有効成分をバランスよく含んでいる硬水で、最高の醸造用水とされています。現在宮水保存調査会の手により、年二回の一斉採水、分析のほか、各種土木工事についてその影響を最小限にとどめるため、工法の検討などを施主に要請するなど、保存活動が行なわれています。

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